食料品の製造・販売を行うLA社のG社長は、約20年前に家業を受け継ぎ社長に就任した。数年前に新ブランドを企画、それに伴いマーケティングを全社的に強化するなどして、売上は右肩上がりとなっており現在の経営状況は非常に安定している。
従業員数は約100名、平均年齢は40歳。活発な意見が飛び交う社内で生まれた新ブランドによって会社の認知度も高まり、中小企業ながらも今や就活生にも人気の企業の一つとなっている。
順風満帆に見えるLA社であるが、G社長は数年前からある問題に気づいていた。
それは、経営者と管理職の会社に対する意識の乖離である。
「以前から管理職の経営に対する問題意識の低さは感じていたのですが、これまで見て見ぬふりをしてきました。しかし、管理職者層が経営者と同じ目線で会社について考え日々の業務と執り行わないと、正直このまま右肩上がりの成長を続け、事業を発展させていくのは難しいと思っています。」
社長の想いと問題意識をヒアリング後、我々はLA社の実態を把握すべく管理職に対して綿密なインタビューを行った。
インタビュー対象者となった管理職は全部で20名。仕事内容や理念・戦略の理解度、現在行われている評価制度の具体的内容などについて、LA社の管理職にどのような課題があるかを探るため、インタビュー項目は以下の25項目に絞った。
社長を初めとするLA社の経営者が管理職に対して感じている事、また管理職が経営者に対して感じている事を数週間に渡ってヒアリングした結果、以下のような答えが返ってきた。
・会社の経営目標が管理職に伝わらない
・管理職の問題意識が低い、経営課題を考える習慣がない
(数値目標に対して、盲目的に従っている)
・自社の問題を、他人事のように捉えている
・新たな後継者や経営幹部が管理職から選出しにくい
・現場の状況を加味せずに意思決定しているように感じる
・経営目標の策定がどのように行われているか分かからない
・数値目標の根拠が不明瞭
・会社の夢やビジョンが分からない
これらの問題点を整理すると、以下のような課題が浮かび上がってくる。
管理職者層の会社経営に対する意識の低さは、上位戦略の垂れ流しで数値目標のみが個人の目標となってしまっている習慣と、経営者が掲げる経営目標の根拠が正確に伝わっていないという意識のすれ違いから来ていた。
これらの問題を解決するため、「管理職が経営者視点を持ちながら業務を進めていくには、どうしたら良いか?」という課題を設定し、我々はこの課題の解決に向けてある研修を設計した。
我々は、経営者と管理職を一同に会し、戦略マップ作成から個人の目標管理シート作成までを行うワークショップを開催した。ワークショップの流れは、以下の通りである。
Step1
まず、管理職向けに「戦略とは何か」という基本的な考え方を理解してもらい、経営について我事化する意識を整える。また、上からの目標を部下に垂れ流すだけであるという問題点も踏まえ、計画と戦略の違いについてもここではっきりと理解してもらう。
Sep2
次に、会社の戦略マップの策定をグループに別れて行う。グループ分けは、経営者と管理職を入交え、各々の立場から知恵を出し合ってもらう。
ここではまず、SWOT分析を用いてLA社の問題点を各グループで考え、経営上の課題を抽出していく。その後、TOWS分析で成功要因についても考察を深め、自社のアクションプランを考えていく。
これらを踏まえ、各グループごとに「財務」「顧客」「業績」「学習」の観点を盛り込んだ戦略マップを作成していくのだ。
経営者と管理職が互いに知恵を出し合った各グループの成果物を全体に共有後、全グループの考えをまとめ、ひとつの戦略マップを完成させる。これで、管理職が抱えていた「経営目標に関する不明瞭さ」は解消される。
Step3
その場にいる全員で作り上げた戦略マップを、今度は個人の目標管理シートに落とし込んでみる。目標管理シートは戦略マップをベースに作成しているが、「テーマ」や「ゴールイメージ」などで個人がよりその実現に近づけるような工夫が凝らしてある。
(※実際の目標管理シートは、CC社独自のものであるため掲載は控えさせていただきます。)
以前は場当たり的で、上からの数値目標=個人の目標としていた管理職であったが、このワークによって「財務」「顧客」「業績」「学習」という、視点で包括的に自身の業務を考えることができた。以下は、総務部部長の目標管理の例である。(テーマやイメージ、その他CC社の目標管理シート項目は割愛)
管理職と経営者が、同じ空間で同じ方向を向きながら自社の経営戦略について考え、自身の目標にまで落とし込む弊社のワークショップは、大盛況のうちに終わった。
管理職たちは、今回のワークに関して以下のような感想を持った。
・SWOT分析で洗い出された外部環境と組み合わせながら課題を洗い出すことは、今までにない取り組みでなかなか困難でしたが、自社や自部署の方向性が明確になりました。そして私自身の「やるべきこと」が明確かつ納得感のあるものになりました。
・今後の活動にリアルに落とし込んでいける内容でとても満足です。今回の研修内容をアウトプットし、身につけ、メンバーに共有していきたいと思います。
・戦略策定の際にフレームワークとして繰り返し継続使用し、考え方を部署メンバーにも定着させていきたいと思います。
また、G社長はこれらのワークと管理職の感想を見て、以下のように話している。
「今回のワークでは、管理職の経営者視点を養うことにつながりましたが、結果的には私自身の経営に関する考え方も整理することができました。また、営業が単に数字を達成するのではなく、どうすれば達成できるかに対するストーリーを描きながら目標を達成することができるようになったのは、とても大きな変化です。ストーリーを描くことによって、部署での目標に対する納得感も深まっています。経営視点・自責で物事を捉える視点が、今回のワークで養われたと実感しています。」
これらのワークショップが本当に社内に浸透するためには、目標管理制度の導入と徹底したチェンジマネジメントが重要である。弊社は、LA社の管理職がLA社の経営者同様の視点を持ち、後継者にふさわしい人材が育っていくための研修も引き続き継続していく。
※本コラムの著作権は、コンピテンシーコンサルティング株式会社に帰属します。著作権法上、転載、翻訳、要約等は、コンピテンシーコンサルティング株式会社の許諾が必要です。
※本コラムでは、企業名が特定されないよう企業情報の一部を修正してあります。