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評価者研修

公正な評価・育成を実現し、部下の成長を支援するために

 外部環境に併せて、人事制度の主流も年功主義や職能主義から、成果主義、役割主義へと変遷している。入社当時からの人事制度を良しとして教え込まれてきた現在の管理職の世代は、新しい制度を頭では理解しているが、気持ちが入っていないケースが多々見受けられる。そのジレンマが顕著に顕れるのが、部下に対する評価・育成である。
 今回のコラムでは、公正な評価・育成を実現し、部下の成長を支援するためのCC社の評価者研修について触れ、部下を評価する者の意識のあり方について言及していきたい。

【研修背景】
 今から約50年前に創業したとあるメーカーの人事部では、社員数の増加と、それに伴う従業員の価値観の多様化、また昨今の市場競争に打ち勝つための人材育成について頭を悩ませていた。
 年功主義や職能主義で評価されていた会社を生き抜いて来た管理職にとって、いざ部下を評価する立場になった時、自分が評価されていたポイントとは異なるということは、頭では理解できても本当に腹落ちはしにくいというのが現状である。

 そのような評価者の現状を打破し、公正な評価と育成を実現するため以下の目的とゴールを設定し、約50名の管理職に向けた評価者研修を実施した。

<評価者研修の目的>
・管理職として、公正な評価を行い、部下の納得性を高める。
・管理職として、部下を育成するポイント(=評価基準)を身につけ、部下の成長を支援する。
・管理職として、組織の業績を把握し、目標を達成する。

<評価者研修のゴール>
・評価の目的と管理職の役割を理解している
・能力評価の基準を理解している
・部下の育成のためのフィードバックの方法を理解している

【研修内容】
 研修の流れは、以下の通りである。

①評価の中での管理職の役割について・・・評価の目的と評価サイクルの中での管理職の役割、貴社の置かれている状況、悪口vs.評価
②目標の設定・・・目標の展開とSMARTな目標(定量・定性目標)
③進捗の管理・・・日常のマネジメントとフィードバック
④評価・・・評価基準や等級別の求める能力の高さ
⑤部下の育成・・・評価・育成面談

①評価の中での管理職の役割について
 評価の目的
評価の目的は、「会社への貢献度の把握」だけでなく、「社員の育成と適性配置」まで含まれている。研修では、前談としてまずはこの観点を管理職の方々に理解してもらう。

 管理職の役割
管理職の役割は、主に部下を通して、組織目標を達成していくことである。管理職は、評価サイクルを適切に回すことで、部下を会社の目標に向け、モチベーションを上げ、能力を伸ばすことができる。下の図のように、組織の目標からブレークダウンされた個人目標を部下と共に設定し、その目標の進捗を管理・評価・育成というサイクルで回していくことが大切である。

 悪口 vs 評価 
 ひとは、評価アパシー(無意識に評価を避ける)というヒューマンエラーを起こすので、管理職は、「勇気」をもって評価を実践する必要がある。日本人の多くは、「ひとの悪口をいうな」と言われて育った。評価を伝えることは、ひとつ間違えると悪口と受け取られる。部下の弱点を指摘するのは、モチベーションを下げるし、つらいので避けたい。他方、部下のよいところをほめていないひとも多い。
 管理職は部下の能力のうち、「知識・スキル」だけでなく、勇気を持って「行動様式・価値観」まで踏み込んだ指導を日常的にする必要がある。

貴社の置かれている状況
 研修では、これらの話を踏まえた上で、現在と20年前で貴社の社員に必要な能力(知識・スキル、行動様式)がどのように変わったかを、個人でまとめていただく。続いて、グループで模造紙にまとめ、全体へ発表することで、過去と現在の外部環境の変化に対する認識を揃え、現在の環境下でどのような評価・育成が部下にとってふさわしいのかについての考察を深める手助けになる。

②目標の設定
 目標の展開
 チームの目的は、企業理念・ビジョンを基に立てられた全社事業計画がブレークダウンされたものである。

 SMARTな目標(定量・定性目標)
 管理職は、部下に目標を展開するときも、個々の能力を考慮しながら、「五分五分の確率」の目標を「SMART」に定義する。目標を「SMART」に定義すれば、部下のやる気を高めることができる。「SMART」とは、以下の頭文字からきている。
S:設定した目標が具体的である(Specific)
M:測定可能なものになっている(Measurable)
A:会社、組織目標から自分の仕事の意義がわかる(Aligned)
R:意欲をもっとも引き出す五分五分で達成できるものになっている(Realistic)
T:期限が明確になっている(Time-bound)

 ③進捗の管理
 日常のマネジメント
 優秀な管理職は、日常業務の些細な出来事から、 「部下の兆候」を把握し、タイムリー に部下を支援している。
 すべての部下のすべての業務を把握することは不可能なので、部下の行動傾向や能力評 価から部下の強み・弱みをあらかじめ押さえておく。部下の報告、日頃の様子・表情など些細な出来事から、向かい風になること・追い風になることが発生していないか把握する。同時に、多面的な情報収集(関連部門などでの評判)も行う。気になる兆候があれば、すぐに面接時間を作ることが大切である。

 フィードバック
 日常の業務の中で、タイムリーにフィードバックを行うことが最も重要である。
 但し、目標設定面談、評価面談できちん時間を取り、部下の強み・弱みと将来の方向性 についてじっくり話し合うことも重要である。
 また、評価の時期になって、必死になって思い出すということがないように、最低月に一度は部下の取り組みを記録に残す。

④評価(演習)
普段、他部署のメンバーと自分の部下の評価のすり合わせを行う機会などない管理職に対して、評価のヒューマンエラーや評価の等級別の求める能力の高さを学習できるように、ここでは実際にいる部下を想定して評価基準を合わせる演習を行った。
演習の流れは、以下の通りである。

1、 個人ワークとして
あなたの「4等級(係長)」の部下の中から「指示・強制力」が「A評価」と「C評価」になる2名を選んでもらう。また、その評価になった理由をそれぞれのひとの役割達成制度の「テーマ、達成方法」からまとめる。実在者がいなければ、過去の部下を思い出して記述してもらう。
2、 グループワークとして
グループで意見を集約し、4等級の指示・強制力が、「A評価」と「C評価」になるモデルケースを作成し、模造紙にまとめる。
3、 全体で
各グループの発表を基に全体で、「A評価」と「C評価」の違いを擦り合わせ、他人の評価観点について知ることで、自分の評価を客観的に見直す機会を設ける。

⑤部下の育成
評価・育成面談
下記のStep1からStep4までの流れに従って、評価・育成面談を行うことが大切である。
 フィードバックの際には、まず相手の見解を聞くこと、相手の見解に自分の見解を付け加えることや、事実と関連づけ、自社の評価基準に照らして能力をフィードバックすること、強みと弱みのバランスの取れたフィードバックをすることが大切である。

【研修後の管理職の意識の変化・感想】
 以上の研修を一日かけて行い、ワークを通じて部下を公平に評価・育成できるような意識付を行った。以下は、研修を受けた管理職のコメントである。

・現在、部下へのフィードバックが年に2回しかできていません。今回の研修を受け、日々のミーティングや個人との話し合いの機会を増やしていかないと、公正な評価や育成にはつながらないということを実感しました。ただ単に部下を評価するのではなく、育成を踏まえた評価をしていかなければと思いました。(部長・男性)

・評価は部下を育成するには重要なプロセスですが、それ以前に評価する自分が部下に対して評価のヒューマンエラー(中心化傾向など)を起こしてはいないか?部下にとって信頼されているか、良い関係か築けているか?などを振り返る良い機会になりました。部下と心の通った信頼関係を築く一歩になればと思います。(課長・女性)

・今回の研修を通して、管理職の役割の理解を深めることが出来ました。人事制度が変わり市場の競争や人の価値観も大きく変容していく中、評価が部下の成長へとつながり、業務で最高のパフォーマンスを発揮できるよう支援していきたいと思います。(課長・男性)

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