2016年12月01日
自動車の自動運転、翻訳、将棋・囲碁など様々な分野でAI(人工知能)の利用が広がってきています。今後、生活や仕事のさまざま場面で、AIを使ったサービスに接する機会が増えることは確実といえるでしょう。
つい先日のNHKのニュースでは、顧客満足度の向上にAIの活用が始まるということが伝えられていました。大手電機メーカーの富士通は自社のコールセンターにAIを導入し、オペレーターの受け答えを改善することで、サービス品質の向上を図ろうとしているそうです。
今回のコラムでは、コールセンターのAIを活用した取り組みついて取り上げます。
NHKニュースによると、富士通は自社のコールセンターに、AIが電話口での顧客の声の高さや明るさなどを分析して100点満点で採点できる仕組みを導入したそうです。
顧客が、高い声・明るい声で受け答えをしていれば、AIは満足度が高いと判断して点数が高くなり、反対に低い声・暗い声で受け答えをしていると、満足度が低いと判断して点数が低くなるそうです。この仕組みによって、どういった受け答えで顧客が不満を持ったのかが把握できるようになり、オペレーターの受け答えの改善につながるということでした。
富士通のコールセンターにはパソコンの修理の件などで、何度か電話をしたことがありますが、感じが良いとオペレーターの方もいれば、そうではない方もいたように記憶しています。今後はオペレーターによる対応のバラツキがなくなるのでしょうか。
富士通のサイトを見てみましたが、AIはコールセンターの他の場面でも活用されているそうです。AIが顧客の問い合わせ内容を解析して、過去の対応事例から最適なキーワードを判断し、模範解答を示すこともできる技術も確立されているということでした。
2つのサービスを組み合わせて使うと、オペレーターは、AIが画面に表示した言葉にしたがって受け答えを行う。顧客の受け答えをAIが採点し、それにもとづいてオペレーターはサービスを改善するということになります。
自分が顧客の立場であれば、コールセンターのAIを活用した顧客満足度を高める取り組みは歓迎すべきでしょう。AIを活用することで、オペレーターの受け答えの品質が高まり、不満を持つことなく会話ができるようになることが期待できます。
コールセンターを運営する企業にとっても、AIがもたらすメリットは大きいのではないでしょうか。AIが表示した言葉にしたがって受け答えを行うことで、誰でも一定の品質で電話応対を行うことが可能となります。
AIを導入したコールセンターでは、新人オペレーターへの研修期間を短縮したり、時給が高い経験豊富な人を減らすことなどによるコスト削減が見込めます。
それでは、コールセンターで働くオペレーターはどうでしょうか。AIが導入された職場で働くことを望ましいと感じるのでしょうか。AIに好意的な見方をすると、AIが画面で言葉を表示することで、オペレーターの負担は軽減されます。難しいクレーム対応などの場面であっても、的確な受け答えができるようになるでしょう。
電話応対をAIに評価されることも、AIの方が人間よりも客観的な評価ができそうという理由でAIの方がよいと感じる人もいるはずです。
AIに否定的な見方もしてみます。AIが仕事のやり方を指示することや評価をすることで、仕事へのやりがいが失われてしまうのではないかと感じます。人は主に仕事の経験を通じて成長します。多くの実証研究で、人材育成に効果があったものは、圧倒的に「実際の仕事を通した経験」であることが明らかになっています。
そして、仕事の経験から学び成長するためには、「1.より難しい仕事や新しい仕事に調整する力」、「2.それを自ら振り返る力」、「3.仕事の意義・自分なりの楽しみを見つける力」の3つが必要であるとされています。
AIが導入された職場では、これらの力を身に付けることは困難ではないでしょうか。AIがサポートすることで、難しい仕事は減り簡単にできる仕事ばかりとなり、AIが自動的に評価をすることで自ら振り返る必要はなくなります。
そして、AIが顧客の問い合わせに対する模範解答を自動的に表示して、オペレーターはただそれを読み上げるということになると、自分自身の力で顧客のサポートができたと実感することは困難です。この様な職場環境では、仕事の意義や自分なりの楽しみを見つけることは極めて難しいのではないでしょうか。
AIが何から何まで指示を出してそれに従って仕事をする、評価もAIにされるという職場で働くことを望ましいと感じる人は少ないのではないでしょうか。
今後はコールセンターに限らず、AIを活用した職場は増えていくことになると思います。その様な職場では、AIによるメリットばかりに目を向けるのではなく、働いている人が仕事のやりがいを感じながら成長できる環境を作り上げていくことが課題となるでしょう。