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「ブラック企業」と呼ばれないために注意すべきポイント

2018年1月7日

「ほとんどの企業が労務管理に問題をかかえている。しかも、その多くが経営に影響を与えるほどの金銭的リスクを伴う。」

弊社がコンサルタントとして、多数の企業の課題を解決してきた中での結論です。

・時間外労働に関する取り決め(36協定)などの法的手続きをしっかりとしている。
・残業代をしっかり払っている。
・社員からの苦情はなく、労基署からの指導も受けたことはない。

上記の様に一見すると法律に沿った労務管理しており、経営者や人事担当者の方が自社には何も問題がないと考えている企業の中であっても、実は法律に違反をしていたというケースもたくさん見られました。

そこで今回のコラムでは、皆さんの会社が「ブラック企業」と呼ばれないために注意すべきポイントをご紹介します。

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貴社の労務管理は万全だと言い切れますか?


まず、最初に労務管理で注意すべきポイントを2つご紹介します。

・就業規則、賃金規程等の内容と実際の運用が異なる
・裁量労働制を導入している

上記に心当たりがあるという企業の方は要注意です。いずれも未払い残業代といった法的リスクに直結しやすいため、改善に向けた解決策を早めに検討する必要があります。

弊社がこれまでにコンサルティングで携わってきた企業の経営者や人事担当者のほとんどが、「会社をもっと良くしていきたい」という気持ちを持った人たちです。

利益を出すためには社員を多少酷使してもよいといったいわゆる「ブラック企業」の様な考えはなく、法律に沿った労務管理をしっかりとやっていきたいという意志を持った人たちが人事を担当している企業です。しかし、その様な企業であっても法的リスクがないと言い切れるケースは少なく、労務管理に何かしらの問題をかかえていました。

労務管理の問題は、企業内部にいる人にしか見えないため、違反があっても気がつきにくく、そこに潜むリスクも認識をしにくいのが特徴です。外部から問題を指摘される機会もほぼないため、現在の制度や運用でずっとやっているから大丈夫、社員から苦情が出たことはないから大丈夫といった過信を生んでしまいがちなのです。

 

就業規則、賃金規程等の内容と実際の運用が異なる


就業規則や賃金規程などに関わる問題のほとんどが、その内容と実際の運用が異なることが原因で生じるといって良いでしょう。

いわゆるブラック企業と呼ばれる企業であっても、残業代は支払わないとあえて就業規則に明記したりはしないでしょう。就業規則上は残業代を支払うことになっているのに実際には支払われない。就業規則や雇用契約書に書いていないのに、基本給に○時間分の残業代が含まれていたことになっているなど、規程の内容と実際の運用が異なることが原因で問題が起こるのです。

うちの会社はそんなことはないから大丈夫だという企業の方も要注意です。

○○に関する規定が就業規則にあるが、実際の運用は書かれている内容と異なる。賃金規程に書かれていないが、○○手当が毎月支払われているといったことは本当にないでしょうか。

弊社がコンサルティングに携わってきた中で重大なリスクがあると指摘したケースをひとつご紹介します。

1.その会社では、○○手当を毎月で支払っていました。
2.○○手当を支給することは賃金規程に明記をしていました。
3.会社ではこの○○手当を毎月の残業代に相当するものとして支給しているという認識でした。
4.社員に対してもその様に説明をしていました。

上記の例のどこが問題かわかったという方はいるでしょうか。

○○手当、これ自体は賃金規程にもしっかりと書かれており何も問題はありません。ただし、「○○手当=残業代」であると明記をしていなかったところに落とし穴がありました。

固定的に支払っている手当が、前払いの残業代相当すると認められるには、就業規則や賃金規程に「○○手当には、20時間分の時間外労働の賃金を含むものとする。」とはっきりと明記をする必要があります(その他にも条件があります)。

その会社では、どういった経緯かは不明ですが、○○手当を残業代の代わりとして支給するという運用が長年行われていました。賃金規程を作成した時に○○手当は残業代相当であると記載をしておけば良かったのですが、そこが出来ておらず、○○手当は運用上は残業代としていたが、賃金規程上はそうと認められないという状態となっていました。

○○手当が残業代として認めらないとなると、別途残業代を支給しなければならない。それを過去にさかのぼって行うとなると、経営そのものにも影響を与えかねないということが判明したのでした。

就業規則、賃金規程等の内容と実際の運用が異なるという状態を放置していると、会社にとって大きなリスクとなる可能性があります。貴社の就業規則、賃金規程等と運用に差異がないか、確認をしてみる機会を設けてみてはいかがでしょうか。

 

裁量労働制を導入している


裁量労働制は、うまく活用すれば、企業にとっても社員にとってもメリットのある働き方になりえます。ただ、この働き方に関して問題をかかえている企業が非常に多く、そこに法的リスクがあることを知っておく必要があります。

弊社がコンサルティングに携わってきた中でも、裁量労働制に関する問題は非常に多いと実感しています。そして、その原因は裁量労働制が非常にグレーゾーンが大きい働き方であるためと考えられます。

例えば、「どの程度、裁量労働制に対象の仕事をしていれば、裁量労働制を導入できるのか?」という問いに答えられる方はいるでしょうか。

多くの方がご存知のことかと思いますが、裁量労働制は対象となる業務が決まっています。研究開発、インテリアコーディネーター、コピーライター・・・といった時間ではなく成果で評価をされる方がふさわしい業務に就いている人のみが、裁量労働制で働くことができます。

では、これらの職種についている人は、全体の中で何%その対象となる業務をしていれば、裁量労働制を適用できるのでしょうか。

裁量労働制というからには100%でしょうか?実務では部門全体の会議に出る、日報を付けるなど、様々な業務にあてる時間が発生します。裁量労働制の対象業務以外は全くしないというのは現実的ではないといえるでしょう。

それでは、対象業務の割合が80%程度ならOKでしょうか?それとも50%程度でもOKでしょうか?実は、何%でOKという明確なラインはありません。「裁量労働制というからには、常にその業務をしていないといけない(100%)。」「裁量労働制の対象となる業務が他の業務よりも多ければ良い(50%程度?)。」など様々な意見があり、問題を指摘する側の労基署の担当者の方も、人によって様々な見解を持っているようです。

裁量労働制がニュースで話題となる時に最も多いのが、会社が本来は対象とならないはずの社員に対しても裁量労働制を適用していたという問題です。

最近では大手不動産会社が、本来は裁量労働制の対象とならない営業担当の社員にも、裁量労働制を適用していたということが報道されました。この会社では、裁量労働制の対象としていた社員は「企画提案型の事業」を担当していた。したがって裁量労働を適用出来ると考えていたそうです。

確かに、企画業務型裁量労働制という制度があり「事業運営に関する事項の企画・立案等を行う労働者」を対象に裁量労働制を適用することができるとされています。

この会社では対象としていた社員の業務の実態は営業であり、企画提案型の事業に関わっていなかったためNGとされたようですが、本当に営業と企画提案型の事業に関わっていた場合にはどういった判断になるのか気になるところです。

適用できるかどうかという最も基本的なことですら明確ではないのが裁量労働制なのです。裁量労働制の導入を検討している企業の方は、後から違反だと指摘をされるといった事態が起こらないよう注意する必要があります。

 

まとめ


今回のコラムでは弊社の過去の経験から「ブラック企業」と呼ばれないために注意すべきポイントをご紹介しました。

労務管理のリスクを放置していると、ある日突然、社員から訴えられる、労基署から是正勧告を受けるといった事態に直面する恐れがあります。ここしばらく、就業規則や賃金規程を改定したことがないという企業の方は、実際の運用と差異がないか確認をすることをお勧めします。

裁量労働制を導入している企業の方は、現在の対象者が本当に裁量労働制の対象業務をしているのかを定期的に確認する機会を設けてみてはいかがでしょうか。

その他にも注意すべきポイントは多数ありますので、また別のコラムでご紹介していきます。

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