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プロ野球の年俸査定と人事評価制度~目標管理が上手くいかない理由~

2016年10月07日

毎年、この時期になるとプロ野球の戦力外通告がニュースで大きく取り上げられます。実績豊富なベテラン、プロになってから数年の若手を問わず、今季の成績が伴わず来季も活躍が期待できないと判断をされた選手は、球団から契約を結ばないことを伝えられることになります。

プロ野球では、打率が何割何分、防御率が何点台と個人の成績は明確な数字で示されます。優れた成績を残した選手は、何千万、何億円もの報酬を得られる可能性があります。一方で、成績が思わしくなければ報酬が大きく減額され、戦力外となって来季の職場を失うことすらあります。

このプロ野球の年俸査定の仕組みと似ている制度として、多くの企業が人事評価の手法として導入をしている目標管理制度(MBO)があります。この制度は、各社員があらかじめ目標を設定し、期末にその達成度を判定し、評価を決める仕組みです。目標管理制度による評価が賃金制度と連携している場合、この評価によって処遇を決めることになります。

もちろん、プロ野球の世界と違って一般の企業では、非常に優れた成績を残したとしても何億円も得ることはできず、成績が優れなかったからといって、いきなり解雇になることはありえませんが。

 

1750倍!プロ野球の年俸格差とモチベーション


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評価にもとづいて報酬に差を付ける点は、プロ野球の年俸査定、一般の企業の人事評価制度も同じです。しっかりと仕事をして、優れた成績を残すことができれば、よい待遇を受けることができる。その反対であれば待遇が悪くなります。

ここ数年、ダルビッシュ有投手(日本ハム→レンジャース)、田中将大投手(楽天→ヤンキース)、前田健太投手(広島→ドジャース)と、日本で一番活躍をしていた投手が、アメリカのメジャーリーグへ挑戦をしました。

挑戦を決断した動機で一番大きいのは、より高いレベルで自分の力を試したいというところにあると思います。ダルビッシュ投手は、移籍前の会見で、日本ではこれ以上真剣勝負できる場がないという趣旨のコメントをしていました。

それだけではなく、日本でプレーしていても得ることができない高額な年俸も動機の一つになっているはずです。実際、日本から挑戦をした3選手は、より良い条件の契約を結ぼうと、移籍交渉の際にプロの代理人を付けて球団との交渉を行いました。

日本のプロ野球で10億円を超える年俸を得る選手はいませんが、メジャーリーグでは珍しくありません。ダルビッシュ投手は11億円、メジャーリーグで一番高い選手の年俸は約42億円だそうです。

一方でプロであっても、平均的な会社員の年収よりも低い年俸の選手もいます。一軍の試合には出れない育成契約の場合、年俸の下限は240万円となっており、実際にその金額で契約を結ぶ選手も多くいます。ちなみに、一軍選手の平均年俸は約3,800万円だそうです。

240万円、3,800万円、11億円、それに42億円です。42億は240万のちょうど1750倍です。お金が全てということはないと思いますが、プロ野球の世界では、成績にもとづいて報酬に差が付く仕組みが、モチベーションの向上につながっているといえるでしょう。

 

目標管理制度でモチベーションは上がるのか?


企業の目標管理制度では、最初に上司と部下で話し合って目標を立てて、期末にその達成度を判定します。

プロ野球であれば、一軍の試合に何試合出て、ヒットを何本打ったという客観的な数値で成績を評価することができますが、企業では各社員がそれぞれ違った仕事をしています。そのため、仕事の内容に応じた目標を立てる必要があります。

ここで注意しなければならないのは、目標管理制度の本来の目的は、組織の目標を達成に向け、個人の自主性や創意工夫をいかに引き出すのかという点にあることです。評価制度と連動して、目標の達成度によって待遇に差を付けるためのものではありません。

目標管理制度では、上から一方的に目標を与えるのではなく、自分自身で目標を立て仕事をする方が、高いパフォーマンスを発揮できるという考え方をします。したがって、上司が一方的に目標を決め、仕事のやり方も細かく指示するということでは、この制度の趣旨からいえば最悪です。

プロ野球では、組織の目標(=優勝)の実現に向けて、各選手が個人の目標(=良い成績を残す)を設定し、自分なりの課題を持って練習に挑んでいます。本番の試合では、もちろん監督やコーチの指示もありますが、だから三振が取れるかというとそうではないですね。例えば、打者の苦手なコースを伝えられたとしても、そこに投げられるコントロールがないとどうにもなりません。主役はあくまで選手です。各選手が自分自身で色々と努力を重ね、工夫をしながらプレーをしています。

よい評価、高い報酬がモチベーションとなる。組織の目標達成と個人成績が両立する。仕事に対する個人の努力の余地が大きい。プロ野球の世界は、目標管理制度による人事評価を導入するのに最適な環境といえそうです。

一般的な企業ではどうでしょうか。たくさんをお金をもらいたい、そのために頑張るといったモチベーションが生まれるでしょうか。人によるかもしれませんが、企業が評価によって報酬に差が付く仕組みを導入した場合、社員は賃金を抑制するための仕組みではないかと感じるのではないでしょうか。

企業の予算は限られます。高い評価を得る人がたくさんいた場合でも、全員の賃金、特に固定給をあげるといったことは困難です。逆に、評価が悪いからといってすぐに賃金を下げるということは少ないと思います。これでは、成果主義と言いつつも、上がり幅も下がり幅もほとんどありません。

いくら企業が目標管理制度を、社員のモチベーションの向上につながる仕組みだと捉えていても、賃金を上げないために導入したと考えています。ここで、企業と社員の間に温度差が生まれます。

目標の設定にも注意が必要です。悪い評価は得たい人はいません。そのため、社員はできるだけ簡単な目標を設定しようします。仕事で成長をしたいからあえて難しい目標を立てて、それに向かって工夫をする。目標管理制度における理想の状態ですが、目標の達成度が人事評価、賃金制度と連動している場合、そのような目標を立てる人がどれだけいるでしょうか。

みんなが簡単な目標を立てて、それを達成したといっても、組織全体の目標の達成はできません。社員の方は目標を達成したのに、報酬に反映されないと不満を募らせることになります。目標管理制度によって、企業と社員がWin-Winの関係となるはずが、結果はLose-Loseです。

仕事に対する個人の努力の余地はどうでしょうか。例えば、儲かっている部門の社員、不採算部門の社員では、明らかに成果の出しやすさが異なります。その企業の花形商品を担当する営業と、儲からないが他社への対抗のために一応出している商品を担当する営業でも、条件が異なります。

当然、部門によって目標の内容は変わってきますが、不採算部門の社員が、努力を重ねて今期はこれだけ頑張りましたといっても、高い評価を得て、賃金が大幅に上がるということは少ないでしょう。

さらに言えば、一般的な企業では、個人や各企業の努力ではどうにもならない、市場環境の変化に直面をすることがあります。業界にもよりますが、2008年のリーマンショックの時に、新規獲得何件という目標を立てていた場合、それを達成するのは非常に困難だったのではないでしょうか。

 

目標管理制度による人事評価が上手くいかない理由


目標管理制度が上手くいかない最大の理由、それは企業がこの制度を人事評価のための仕組みであると勘違いをしていることです。目標の達成度によって、報酬に差が付くから社員のモチベーションが上がるだろうと期待をしてはいけません。

目標管理制度は、組織の目標の達成に向けて、個人の自主性や創意工夫を上手く引き出すことを目的とする経営管理の手法の一つです。この仕組みは、人は自主性を与えた方が、力を発揮できるという考え方をします。

そのため、目標設定の際には、上司から部下に一方的に目標(ノルマ)を与えない。日常の業務では、上司が部下の仕事のやり方について細かく指示や命令をしないということに注意する必要があります。一方で、部下に任せきりにすると、すぐに達成できる簡単な目標を設定したり、上司の見ていないところで仕事の手を抜いているかもしれません。

上司は目標を押し付けないが、適切な目標を設定するように導く。仕事のやり方にいちいち口出しをしないが、部下がしっかりと仕事を進めているのかを確認し適切なサポートをする。目標管理制度の運用では、上司(管理職)の果たす役割は大きいといえます。ノルマを与えて、仕事のやり方も指示をする方がむしろ楽かもしれません。上司には、部下を信用して任せるという忍耐力が求められます。

目標管理制度が上手くいっていないと感じている企業の方は、この制度を導入した目的を振り返ってみてはいかがでしょうか。また、運用の中心となる管理職の方が、目標管理制度の目的と自身が果たすべき役割を認識しているのか確認することも必要かもしれません。

あくまでも、目標管理制度を人事評価と連動させて、モチベーションの向上を図りたいという考え方をする場合は、もちろんプロ野球の様にとはいかないまでも、それに見合うリターンを得ることができるようにして下さい。高いノルマを押し付けておきながら、達成できた時の報酬が少ないという仕組みでは、社員のモチベーションが低下することはあっても、向上につながることはないでしょう。

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