2016年10月19日
多くの方がご存知のことかと思いますが、日本の企業の大多数は中小企業です。中小企業基本法による中小企業の定義に当てはめると、大企業が1.1万社で全体の0.3%、一方、中小企業が380.9万社で全体の99.7%となっています。(数値は2016年度版中小企業白書より)
日本経済を支えているのは中小企業であるといった言い方もされますが、この数値を見る限りはその通りだと感じますね。
その中小企業に関して、中小企業庁が毎年公表している中小企業白書の中で、「中小企業の稼ぐ力を決定づける経営力」というタイトルで、稼げる企業とそうではない企業の違いについて取り上げています。
最初に「稼げる企業」の定義について触れておきます。2016年度版中小企業白書では、自己資本比率と経常利益率の両方が大企業の平均以上である企業を稼げる企業としています。今回の調査対象となった10,749者のうちの19%です。
■経常利益率、自己資本比率に基づいた中小企業の分類
※画像引用元:中小企業庁「2016年度版中小企業白書」
それでは、中小企業白書の内容から稼げる企業の特徴をあげていきます。
○稼げる企業は、投資に対して積極的であり、売上高に対する投資割合が高い。固定資産に対する投資だけではなく、人材育成に対する投資にも積極的である。
○稼げる企業は、従業員が個々の収入・待遇に満足していると答える割合が高く、従業員の自社に対する満足度も高いことがうかがえる。
○稼げる企業は、経営計画や経営戦略の内容が現場まで浸透している割合が高い。経営層が事業計画等を策定し、それを全社一体で共有するという組織的な経営を目指していることがうかがえる。
稼げる企業は、稼いだお金を貯めておくのではなく、積極的に投資に回しています。直感的には、固定費である人件費削減を図ったほうが、企業は利益をあげやすい体質になると思われますが、白書からは逆の姿が見えてきます。
稼げる企業は、人材育成に対する投資に積極的であり、従業員の収入・待遇に対する満足度が高いそうです。目先の利益にこだわり、低賃金で人を使い捨てにするのではなく、人材育成にお金をかけて、従業員が気持ち良く働ける環境を作る方が、稼げる企業への近道といえそうです。
経営計画や経営戦略の内容が現場まで浸透している割合が高いというのも、人材育成への投資に積極的の表れと考えられます。
中小企業とはいえ、会社のトップから一般の従業員まで、経営計画や経営戦略を浸透させるのは簡単ではありません。離職率が高く、人の入れ替わりが激しい企業であればなおさらです。長く働けない、すぐに辞めるかもしれない組織の経営計画や経営戦略を理解しようとする人はいません。賃金等の待遇も含め、従業員が長く働ける環境があってこそ、従業員に経営計画や経営戦略を浸透させることができるのではないでしょうか。
引き続き、中小企業白書の内容から稼げる企業の特徴をあげていきます。経営者が認識する自社の競争環境の変化についてのアンケートの回答を見てみます。
○稼げる企業の経営者は、外部環境の変化に対し「(自社の)技術・サービスの質が高度化している」と回答しており、自社の技術・サービスと市場の動向を見極めている傾向にある。
○一方で、稼げる企業ではない企業の経営者は、市場の変化を好ましくない状況と捉えていることが多いことがうかがえる。自社の競争環境の変化について、「市場の価格競争が激しくなっている」、「市場のニーズが多様化している」、「人口減少により市場が縮小している」、「同業他社との競争が激しくなっている」への回答割合が高い。
自社にとって不利と考えられる状況にいかに対応していくかに違いが表れています。経営を続けていくためには、世の中の変化にしっかりと対応していく必要があります。企業を取り巻く環境は常に変わっていきます。環境の変化に対して、経営者がどの様な認識を持っているのかも企業の収益性に影響を与えていそうです。
稼げる企業の経営者は、自社の持つ技術・サービスの質を高めることで、どの様な環境でも利益を出すという心構えを持っています。一方で、そうではない企業の経営者は、市場の変化を好ましくないものと捉え、自社の低迷の理由を外部要因のせいにしていることがうかがえます。
最後は、稼げる企業も含めた中小企業の課題についてです。中小企業白書では、中小企業の経営者年齢について取り上げています。
少し驚きなのですが、1995年には、経営者年齢のピークが47歳だったのが、経営者の高齢化が進み、2015年には、経営者年齢のピークが66歳となっているそうです。1995年に40代、50代だった経営者が、20年たってもそのまま経営者の地位にとどまっているということになるでしょうか。
66歳というと、経営者でなければ一般的にはリタイアをしている年です。5年先は大丈夫かもしれませんが、10年、20年先は考えにくい年齢です。次の世代に事業を引き継ぐにしても、自分の代で終わらせるにしても、安定した経営状態にしておきたいはずです。
稼げる企業は、積極的に投資をしている、外部環境の変化に自社の技術・サービスの質が高度化して対応しているということでしたが、高齢の経営者の場合、この様な判断をすることは難しいと思われます。
中小企業白書では、若い経営者ほど「積極的に投資していく必要がある」や「成長にはリスクを伴う行動が必要であるし、積極的にリスクを取るべきだ」と答える傾向が高く、一方でシニア層の経営者は「自社の成長は市場の成長に依存している」や「リスクを伴ってまで成長はしたくない」と答える傾向が高いことが指摘されています。
さらに中小企業白書では、経営者の交代しているの企業は、経営者の交代をしていない企業に比べ、経常利益率の上昇幅が大きいことが見て取れると指摘しています。
次世代の経営者の育成し、計画的な事業承継に取り組んでいかなければ、この先70代、80代の経営者が増えていくことになります。企業の収益性を維持し、高めていくために、計画的に次世代の経営者への事業承継を行うことが多くの中小企業の課題といえそうです。
2016年度版中小企業白書では、稼げる企業とそうではない企業の違いは、人材育成も含めた投資に積極的であるかどうか。外部環境の変化に対して、自社の技術・サービスの質が高度化して対応しようという認識を、経営者が持っているかどうかなどであると指摘しています。
高齢の経営者は「リスクを伴ってまで成長はしたくない」と考える傾向が高くなってきますが、この20年で47歳から66歳に経営者の高齢化が進んでいます。次世代の経営者への事業承継が中小企業における重要課題であると考えられます。