前回のコラムでは、「役割等級制度」の特徴を解説いたしました。2回目となる今回は、「役割等級制度」と「職能資格制度」および「職務資格制度」との違いを解説いたします。
日本の多くの企業では「人の能力」を基準に社員の格付けを行う職能資格制度が主流ですが、雇用の流動化・多様化が進んでいる昨今では、「仕事」を基準とする制度への見直しがなされてきました。「仕事」を基準とする制度としては職務等級制度がよく知られていますが、大手企業を中心に「役割」を基準とした役割等級制度の導入も進んでおり、中小企業にも役割等級制度の導入が広がってきています。
それでは、それぞれの制度について詳しく説明いたします。
職能資格制度とは、「社員個人の能力に着目し、その保有能力・発揮能力に基づき社員を格付けし、能力の伸長を評価し、処遇を決定する仕組み」です。
この制度は多くの日本企業に導入をされてきましたが、バブル崩壊後、ホワイトカラーの低い生産性、リーダー不足という深刻な問題に日本社会が直面し、職能資格制度の年功序列的な運用への批判が出てきました。そもそもこの制度が、社員の能力向上に資する仕組みだったのかという疑問の声も出ています。
このような背景から、最近では役割等級制度・職務等級制度への乗り換えが進んでいます。
職務等級制度とは、「社員の担う”Position”の価値に応じて社員を格付けし、期首に具体的な仕事の目標を定め、期末に成果を評価し処遇を決める仕組み」です。
日本以外の諸外国で一般に採用されている制度で、上司が組織目標の達成のために必要な組織構造とPositionを設計し、そこに社員を配置することを前提としています。Positionという言葉を、本コラムでは「1人の社員が担う仕事の固まり」と定義します。営業課長の下に3人の営業担当者がいる場合、計4つのPositionが存在することになります。
■組織構造・PositionとJD
会社の主なPositionには、その仕事の固まりをほぼカバーする”JobDescription”(以下JD)が用意されます。JDは、具体的な仕事の内容と責任をリストアップしたものです。各JDの価値は,ジョブサイズとして点数化され、その点数に基づき等級が決まります。また、その等級に合わせて給与水準も決定されます。
役割等級制度とは、「等級毎に会社が定めた役割をもとに社員を格付けし、期首にその役割にふさわしい目標を定め、期中に日々の業務を通してフィードバックし、期末に成果を評価し処遇を決める仕組み」です。詳しくは役割等級制度とは?(1)の中で解説をしています。
職能資格制度、職務資格制度、役割等級制度の特徴をまとめました。役割等級制度と職務等級制度は、どちらも社員の担うPositionの価値をベースにした制度であり、共通点が多いといえます。
■各制度の主な特徴(概要、等級)
*実施率は、労務行政研究所「人事労務諸制度実施状況調査」(2013年)より
■各制度の主な特徴(評価、報酬、配置)
役割等級制度を職務等級制度に移っていくための過渡期的な制度という学者もいます。この2つの制度で1つ典型的に違うのは、職種の違いを超えて、会社が各等級に求める職責をまとめた「役割定義書」があることです。
■職務給制度と役割等級制度
注意:実際の組織は、様々な等級のスタッフから成り立っています
役割定義書があれば、社員が求める全社的な透明性、公平性を保つことができます。さらに、社員に自分の等級を意識させることで、創意工夫、自主性・チャレンジを引き出すとともに、今後のキャリアを考える機会を与えることにつながります。
役割等級制度を実施している企業では、目標管理を導入していることが多いため、Positionの中身を柔軟に決めることができます。職務等級制度で必要なJD作成などにかかる時間も大幅に削減できます。ただし、役割等級制度とは?(1)でも述べていますが、役割等級制度の「柔軟性」はくせものでもあります。
職務等級制度側からみれば、いろいろな職種があるのに、役割として一つにまとめるのは強引すぎるとの意見もあります。しかし、欧米でも、職種の枠を超えて、各等級に求める行動を定義し、行動評価をすることで職務等級制度の強化をしている会社も多くあります。
職能資格制度は、社員が担うPositionという考え方がないので、役割等級制度と全く違うものになります。職能資格制度は資格と実際の仕事が分離しているので、目標管理との相性はよくないといえます。
職能資格制度で職種を超えたローテーションをしやすいという特徴が強調されるのは、異動先の仕事で成果が出せなくても、能力が変わらなければ、評価や給与を変える必要がないからです。人材育成の施策としてローテーションを積極的に行う会社で、役割等級制度を導入しない理由として、この点がよく挙げられます。
次回は役割等級制度の成功のポイントを、設計、導入、定期運用の3つの段階毎にまとめます。