「役割等級制度」に関する初回と2回目のコラムでは、制度の特徴と他の制度(職能資格制度、職務資格制度)との違いを解説いたしました。
役割等級制度の導入はおおむね10年ぐらい前から始まりましたが、いち早く制度を取り入れた大手企業の中には特に運用で苦労し、定着に至らない事例も見られます。
そこで3回目となる今回からは、タイトルを「勝ち残る会社になるための人事制度の作り方」に改め、役割等級制度の「制度設計」、「制度導入」、「定期運用」についてのポイントをご紹介いたします。今回は「制度設計のポイント」についてです。
■「役割等級制度」についてのコラム
第1回「役割等級制度とは?(1)役割等級制度の特徴」
第2回「役割等級制度とは?(2)等級制度の比較」
第3回「勝ち残る会社になるための人事制度の作り方(1)制度設計のポイント」
第4回「勝ち残る会社になるための人事制度の作り方(2)制度導入・定期運用のポイント」
ここで前回までのコラムの内容を少し振り返ります。役割等級制度は、職務等級制度の一種と定義されます。しかし、欧米で一般的な職務等級制度とは一線を画します。職務等級制度は組織ありき・仕事ありきの硬直的な仕組みであるのに対し、役割等級制度には会社が定めた「役割」にふさわしい目標を社員が自ら立て、必要な貢献をしていくという「柔軟性」があるからです。
この柔軟性は、役割等級制度を「社員の自律的な成長を促す仕組み」として活用することもできます。一方で、この柔軟性はくせ者でもあります。運用の中で、社員が本当に役割にふわさしい仕事をやっているのかをしっかり検証する仕組みも同時に必要だからです。
役割等級制度の成功させるためには、制度設計、制度導入、定期運用の三つの段階毎に重要なポイントがあります。それでは制度設計について解説いたします。
制度の目的には、公正な処遇だけでなく人材育成をはっきりと掲げることが重要です。経営目標の達成には人の成長が不可欠ですが、人の成長のほとんどは実務経験を通して実現されます。役割等級制度の下で目標を設定し、業務を遂行して、その評価をフィードバックすることで人材育成に直結させていきます。
等級間の役割の差を明確にするため、等級の数は抑えめにします。企業の規模に関係なく、非管理職だと3~4等級、役員を除く管理職で3~4等級の会社が多いといえます。
例えば、非管理職に「エントリー」、「中堅」、「シニア」という3等級をイメージすれば、部下に期待する役割の差が明確となり、日々の仕事でのフィードバック(期待以上・期待通り・期待以下)の質も上がります。
役割定義には、ビジョンや戦略から自社の強みとしたい言葉を入れ込みます。例えば、下の図の役割定義書の例では、マネージャ3の社員が全社レベルで後継育成に携わることを強みにしようとしています。
ただし、理想を追い求めすぎて、現実とかけ離れた難しい役割を設定しがちになるので、各等級にいる社員の実力を勘案しながら、ある程度現実的な定義に留めることが重要です。
■管理職用の役割定義書(ある企業の例)
成果を創出するなかで、評価対象として様々なものがありますが、行動評価を取り入れることが有効です。
■評価の対象
人は、具体的に定められた目標や自分の業務に集中します。そこに書かれていない難しい目標への挑戦、関係者を巻き込むような行動はなおざりにされがちです。そのような人の本質を行動評価という形でバランスさせる必要があります。
しかし、この行動評価は、一つ間違えると好き嫌い評価、印象評価といわれかねません。評価項目を絞り、運用のレベルを上げる必要があります。
目標管理を非管理職に導入するかどうかは、業務の特性や社員の能力をふまえて慎重に判断する必要があります。
定型的な仕事が大部分を占める場合は、業務プロセスに基づく業績報告のみで十分かもしれません。目標管理に必要な高い概念化能力を求めても、現場で運用できない事例も多く見られます。
非定型の仕事が多い社員や管理職には、ぜひ目標管理を取り入れて下さい。外部環境や経営課題の変化に伴い、目標が変わり達成手段も多岐にわたります。目標シートに構造を持たせ、何をどのようにしてやるのかをしっかり書かせることが有効です。
役割給に一本化して、公正な処遇を実現します。職能給との併用など社員にとって分かりにくい制度は、公平性を疑われることになります。本コラムのスペースだけでは詳細を書ききれませんが、内部公平性・外部公平性を保ったものにする必要があります。
次回のコラムでは制度導入、定期運用について解説いたします。