前回は役割等級制度の成功のポイントのうち、制度設計を中心に解説いたしました。今回はその続きとして、「制度導入」と「定期運用」について解説いたします。
■「役割等級制度」についてのコラム
第1回「役割等級制度とは?(1)役割等級制度の特徴」
第2回「役割等級制度とは?(2)等級制度の比較」
第3回「勝ち残る会社になるための人事制度の作り方(1)制度設計のポイント」
第4回「勝ち残る会社になるための人事制度の作り方(2)制度導入・定期運用のポイント」
新たに人事制度を導入する場合、制度設計をばかりを重視しすぎると、その後の運用や定期的な見直しのことが置き去りになってしまいます。人事制度を定着させるためには、今回ご紹介する「制度導入」、「定期運用」をいかに進めるかが重要となります。
新しい人事制度を導入する場合、社員は新制度の導入が公正に行われているかどうかに注目しています。そのため、会社にある全てのPositionの役割の大きさを測定して、社員の再格付けを実施することが有効です。
※Position・・・1人の社員が担う仕事の固まり
再格付けの結果、降級の対象となる社員が出た場合、その社員に対して上司はしっかりと理由を説明して、復活に向けての支援を行うことが重要です。
降級は格付けの結果を受けてすぐに降級を実施するのではなく、半年から1年間の猶予期間を与えることが多いといえます。その間に上司は、改善計画を一緒に作成し、定期的に進捗のレビューを行います。
上司が真摯に降級の対象者を支援していかなければ、降級者が周りの社員に不満をぶちまけ、組織が破たんすることもあります。再格付けは十分な注意を払いながら進める必要があります。
公正な制度にするために、部署単位で目標と評価基準をすり合わせるプロセスを確立することが重要です。
・期首・・・個々人の目標の高さ
・期中・期末・・・実績に対する評価基準
最初から完璧な運用を行うことはできません。少なくとも導入から2年程度(年次評価を2回経験)は目標の設定や評価に十分な時間をかけ、運用のレベルを年々上げていくことを目指します。
また、制度の導入時点では、管理職の役割の大きさの基準はばらばらであることが一般的です。管理職の目標管理シートを全社に公開する会社もあります。見える化をすることで、管理職が等級にふさわしい役割を担っているかを相互監視できるようにしています。
経営陣や管理職を導入時の研修に積極的に巻き込むことで、新たな人事制度を積極活用するように意識付けを行います。現場が制度への納得感を持たない限り、導入と同時に制度は形骸化していきます。
導入研修では、管理職への基本的なスキル研修は必須です。以下の内容を盛り込んだ研修を実施します。
・新制度の知識
・評価スキル
・フィードバックスキル など
さらに、上司が質の高い目標管理シートを自身で書けるようにしなければなりません。自組織のチャレンジを明確にし、解決のための工夫を示すことが上司の存在価値となります。
部下が等級相当の役割を果たしているのかを事実と結果、およびしっかりした評価基準をもとにして、日々フィードバックをするように導くことも重要です。こうした日々の蓄積が、期末の評価の納得度を高めることにつながります。
管理職向けだけではなく、社員向けの研修をする会社も多くあります。研修を通じて、社員が該当する等級の役割定義を読み込み、自主的かつ創意工夫を持って、チャレンジングな目標を定めることができるように導きます。
年に一回程度の間隔で、全Positionの役割の大きさを測定して、会社が求める役割を社員が担っているかの確認をします。定期測定によって、社員の貢献と報酬のかい離を是正して、制度の公平性を保ちます。
また、個人の実際の仕事は、人事制度に関係なく、上位から下位にブレークダウンされることが多いといえます。その結果、該当する等級の役割を満たさなくても組織が動くため、Positionにふさわしい役割を本当に果たしているのかを定期的にレビューする機会は欠かせません。
人事の運用担当者のスキルを上げていくことも重要です。例えば、現場で行われるすり合わせ会議に参加して、役割定義に照らして目標管理や評価が行われているかしっかり指摘できるようになることが求められます。
役割の大きさを測定するスキル、会議のファシリテーションスキルも求められます。その前提として自社のビジネスと経営課題、経営全般に関する知識も高めていかなければなりません。