役割定義書は、役割等級制度において、各社員が負うべき仕事の「責任」を「全社共通」の大まかさ(粒度)で、各等級別に定義したものである。
役割定義書の具体例
正社員数1000人程度の中堅企業向けの役割定義書の具体例を以下に示した。この会社の正社員の仕事(役員を除く)は、ライン管理職が本部長(M3)、部長(M2)、課長(M1)の3等級、非管理職が上級スタッフ(S3)、中級スタッブ(S2)、初級スタッブ(S1)の3等級、計6等級から成り立っている。
なお、社員の高い専門性で競合他社と差別化を図る会社では、高度な課題解決の観点から会社に貢献する管理職待遇のスタッフ職(以降プロフェッショナル職)を設置することがある。そのような会社では、ライン管理職と同水準の格付け・報酬水準で別途プロフェッショナル職用の役割定義書を作成することになる。
役割定義書の構成要素
弊社では、組織を「共通の目的の達成のために、組織メンバーが専門性に基づき役割分担し、その分担に基づき活動し、目的達成に向け課題があれば解決し、必要があればメンバー間で調整することで、メンバー全体による成果を最大化させるひとの集団」と定義している。この定義の中から以下の5つの要素を抜き出して、上記の役割定義書は作成されている。
- 仕事に関する「専門性」
- 通常業務(日常業務、定型業務)についての「業務管理」
- 通常業務ではない業務(非定型業務)についての「課題解決管理」
- 仕事を進める上での「関係者管理」
- (1)~(4)を発揮した上で、総合的に期待される仕事の「成果」
役割定義書の等級の数
役割等級制度では、組織構造が示す役割分担(縦の階層と横の職種)のうち、縦の階層に着目して等級を設定する(上図の右側を参照)。「等級の数」は、会社の規模、事業内容と職種、効果的・効率的な組織構造と組織階層の数(レイヤーの数)と「スパン・オブ・コントロール(
弊社の経験では、管理職については、1000人規模の会社なら課長・部長・本部長の3階層・3等級で済むことが多い。さらに大きな会社なら、課長・部長・統括部長・本部長という4階層・4等級にすればよい。実際、社員数が10万人を超える大企業でも役員を除く管理職なら4等級で納まることが多い。
非管理職の正社員については、全社に占める定型業務に従事する社員の割合が少なければ、会社の規模に関係なく3等級か4等級で対応できることが多い。他方、定型業務に携わる正社員の割合が高い会社では、さらにいくつかの等級を加えることがある。
役割定義書と職務記述書の違い
役割等級制度と職務等級制度はどちらも「仕事」を基準に考える人事制度ではある。
役割等級制度は、全社的な透明性、公平性、わかりやすさを第一義におき、職種の違いを超えた全社共通の基準として、組織階層に近い形で等級数を設定し、各等級の定義を行っている(下図の右側を参照)。但し、定義内容が抽象的なので、上位者の戦略や組織構造に基づき、仕事の内容を具体化していく必要がある。言い方を換えれば、社員の課題認識と解決のための創意工夫・アイデアを活かすことができる。
他方、職務等級制度における職務記述書は、階層に加え職種毎、場合によってはより細分化されたポジション毎に仕事の内容と責任を細かく定義する(下図の左側を参照)。例えば、営業本部長と人事本部長のポジションが偶然同じ等級M3に格付けされたとしても、職務記述書に書かれる仕事の内容と責任は全く違うものになる。同じ等級なので、全社共通で期待される仕事の責任を最大公約数的にまとめるということはしないことが多い。