コンピテンシーとは
コンピテンシーとは、知識、スキル、行動特性、価値観、動機、性格などから成る「ひとの能力」をいう。研究者によって表現は微妙に異なるが、下図は、コンピテンシーの全体像を示している。
この全体像は、直接観測可能な領域(外から見える部分)とそうではない領域(見えない部分)があるので「氷山モデル」とも呼ばれる。外から見えるものは比較的開発しやすいコンピテンシーで、見えない部分のコンピテンシーは開発が難しく、さらに深い部分は社会人になってから開発が不可能なコンピテンシーとなる。
なお、コンピテンシーという言葉が、この「モデル全体」を指す場合の他、モデル中の「行動特性」のみをさす場合があるので、文脈上どちらが論じられているかについては注意が必要である。
人事の分野では、高い成果につながる行動特性に焦点をあてた研究・議論が主であるため、コンピテンシーと行動評価を同義語として扱う場合が多い。本説明においても、次節以降、行動特性(狭義の「コンピテンシー」)について掘り下げて論じたい。
コンピテンシーの具体例
前述したように、様々な研究者が様々なコンピテンシーの体系を提唱している。弊社は、高業績者と平均的な業績者を分けるコンピテンシーを16項目としている(下表を参照)。
この16項目は、仕事/他者(個人・集団)/自己に大きく分かれ、さらに認知/達成、親和/権威/マネジメント、自己理解/自己適用の6つのクラスター(小分類)に分類される。
弊社の例もそうだが、どの研究者の体系も、すべてのコンピテンシーを網羅的に定義しているものではなく、各研究者が高業績者と平均的な業績者を分けるための特徴的なコンピテンシーを選んでいることに注意してほしい。言い換えれば、意図的に外したコンピテンシーが背後にいくつもあるということである。
職種とコンピテンシー
職種によって、求められるコンピテンシー(行動特性)は当然違う。一般的には、管理職には、対人影響、達成志向、チーム作り、分析的思考などが特に重要となる。専門職・技術者なら、達成志向、対人影響、概念化・ゴール設定、分析的思考など、支援・サービス労働者なら、対人影響、育成、対人志向などが特に重要となる。
注目すべきは、ほとんどの職種で「達成志向」「対人影響」が選ばれていることである。目標の達成に向け粘り強く仕事を続ける行動や他者に影響を与え協力を引き出す行動は、職種に関係なくよい仕事をするために必須だからである。
さらに注目すべきは、専門職・技術者に「対人影響」というコミュニケーション能力の一種を求めていることである。影響力を発揮するためには、他者の理解できる言葉を使って、自ら働きかけ、関係者を巻き込むなどのアクションが必要になる。知識・技術だけが高い、独善的な専門職・技術者ではない。
コンピテンシーの向上
コンピテンシー(行動特性)の中にも、向上させやすいものと向上させるのが困難なものがある。一般的に向上が比較的やさしいものとして、育成、確実な実行、チームワークなどがある。他方、向上が困難なものとして、概念化・ゴール設定、柔軟性などがある。これらのコンピテンシーの開発が困難なのは、変えることが難しい個人の性格や知的能力と関係が深いためである。