役割等級制度とは、会社の中にある階層ごとの主な役割を等級別に「役割定義書」で定義し、社員の就くポジションが主にどの等級の役割定義に該当するかで社員の「等級」を決定し、評価期間に社員が出した様々な成果が役割定義書にある責任をどの程度果たしたかで「評価」し、評価結果に応じて等級ごとの「範囲給」の中で昇給・降給したり、賞与が増減したりする人事制度である(以下の図表を参照)。
なお、弊社では、役割等級制度や職務等級制度のような、社員の就く仕事の責任の重さ、その仕事の出来栄え、その仕事の価値への対価など、仕事中心で等級・評価・報酬などを公平に決定する制度を「仕事基準の人事制度」と呼んでいる。これは、欧米で一般的な「ジョブ型雇用システムの核」になる部分であり、日本の環境でも十分機能すると弊社は考えている。
組織構造
会社は、戦略や日常業務を進めるために、組織構造の中の具体的な役割分担とポジション数を定める。仕事基準の人事制度である役割等級制度を有効活用するためには、組織構造は、「①個人の就いたポジションと個人の等級にずれがない」「②適正なポジション数」の2つを守る必要がある。
等級のずれを放置すれば、仕事基準で設計した評価・報酬は機能しなくなってしまう。多くの日本の会社は年功序列で社員の等級を上げて行くため、個人の就くポジション(仕事の責任の重さ)と個人の等級にずれが生じやすいので注意が必要である。
ポジション数の過剰は、仕事に大きな重複や無駄があることを意味し、誰の責任・誰の成果なのかがわかりづらくなり、仕事基準で設計した評価の運用が難しくなる。さらに、ひとり当たりの報酬が少なくなり、労働市場で不利になる。ポジション数の過少は、個人の責任が大きくなりすぎたりあいまいになったりして、やはり等級・評価・報酬がうまく機能しなくなる。
さらに、詳しく解説したい。会社が成長し、労働生産性が高くかつ労働分配率を適切なレベルに抑えられているのならば、ポジションが増え、社員の採用・内部昇格の機会も増え、社員には仕事を通した成長が求められる。あるいは、新規事業に先行投資することでポジションが先に増えることもある。しかし、どこかで成長が鈍化するし、どこかのタイミングで新規事業の成果を精査しなければならない。経営計画の達成度と労働生産性・労働分配率の経年変化をみながら、総ポジション数を管理することが必要となる。
会社が成長していなければ、ポジションは増えず、今あるポジションを取り合うゼロサムの世界になる。採用は退職補充以下に抑えなければならない。昇格する機会は、上位ポジションに就いた社員が退職したり、降格したりしない限りない。社員の仕事を通した成長も限定される。不必要な採用や年功的な昇格に歯止めをかけるため、総ポジション数・管理職などの上位ポジションの数の上限管理が必要となってくる。さらに、個人が就いたポジションと個人の等級にずれがないように、定期的に確認することも検討が必要となる。
等級
役割等級制度では、会社の中にある階層ごとの主な役割を等級別に「役割定義書」で定義する(詳しくは、「役割定義書」を参照)。社員の「等級」は、自分の就くポジションが主にどの等級の役割定義に該当するかで決定される。また、社員は、上位等級の定義を読めば、将来どんな役割を担いそのために必要な能力が何かなど、今後のキャリアを検討することもできる。
評価
役割等級制度の評価は、成果評価と行動評価で行われることが多い。
成果評価は、目標管理による絶対評価をする(例:目標毎に5点満点で評価し、平均点を出す)ことが多い(以下の図表を参照)。
社員は、役割定義書により会社からの期待をおおまかに把握し、目標管理により自らのポジションの中の具体的な仕事を自主的に定め、自己評価することになる。さらに、日々の実務の中で、上司に自らの成果を報告する必要がある。上司は、役割定義書を基に部下がポジションを通して等級に相応しい役割を果たしているかを判断し、日々の実務の中で部下にフィードバックし、実務を通した人材育成をする。さらに、蓄積されたフィードバックを納得度の高い評価につなげていく。
行動評価は、コンピテンシーディクショナリーの中から各社が選んだ重要なコンピテンシーによる絶対評価をする(例:コンピテンシー毎に5点満点で評価し、平均点を出す)ことが多い(以下の図表を参照)。
最終的には、成果と行動を合わせた総合評価点(例:成果と行動を合わせた5点満点の平均点)を参考に、ある組織単位で相対評価(例:S,A,B,C,D)をすることが多い。
報酬
役割等級制度では、社員の報酬は、同じ等級の仕事に就けばほぼ同一の価値の仕事とみなし、同一水準の報酬になる。よって、報酬の構成はシンプルで基本給(あるいは役割給)と賞与の2つからなることが多い。基本給は、評価結果に応じて、昇給・降給することになる。賞与も評価結果に応じて変動することになる。さらに、昇降格に応じて、基本給が見直される。
基本給は、等級毎に定められた給与レンジ(範囲給)のどこかのゾーンに位置することになる。昇給額・降給額は傾斜配分するために、取った評価だけではなく現在の基本給のゾーン位置に応じて決まる(以下の図表を参照)。
賞与は、基本給の何か月分という標準賞与月数を基に、会社業績係数や個人の人事評価係数を乗じて支給されることになる(以下の図表を参照)。